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説明し終わった佐藤がどうですかと言わんばかりにこちらを見てくる。
もちろん考え事をしながらも彼の解説はしっかり聞いていた。
「佐藤君は傍線部の“近代国家のネガティブな側面がポジティブな側面を空洞化してしまっている”という部分を前のL43にあった“両義性”と結びつけて考えたということだ。その導き方は正しい」
俺がそう言うと佐藤はへらっと笑って少し自慢気な顔になった。
......やはりアイツを思い出すな。
鬱陶しいので次の生徒を指してコテンパンに潰すことにしよう。
*
「...はぁ」
こんなに、感情を晴らすために生徒を泣かすまで淡々と説明のダメさを指摘したのは久しぶりだ。思わずため息もでる。
反省しないとな。
「おっ、学校イチのイケメン先生がため息ですか?橘柳先生!」
「......お前か」
職員室へ戻るために廊下を歩いていた俺に後ろからわざとらしくぶつかってきたのは同期の内藤だった。
「橘柳優夜、現在28歳独身、モテモテなのに彼女無しの名前負けした冷淡残念イケメン!」
「おい、勝手に人を装飾するなよ」
「えー?なんですか恋のお悩みですか~?」
「さっきからうるさいな僻みの塊が」
「ひど~い、先生泣いちゃ~う。そんなんだから高校の時も彼女にこっぴどく振られ...ひっ、すんません!」
俺はギロリと睨み付けて黙らせる。実はコイツは高校からの腐れ縁だったりする。
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