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 どうにも息が詰まって仕方がない。少しでも気分転換になればと私は障子戸を開け放った。  暖かな陽光が降り注ぎ心地よい風が肌を撫でる。縁側の向こうは庭が広がり、青々とした木々が池を囲うようにして植えられている。鳥のさえずりに耳をすませば、高鳴る鼓動も幾ばくかマシになった気がした。 「書けたぞ。確認をしてくれ」  言われて、私は手書きの書面を受け取った。  一字一句、一画々々、視線で穴が開くことも厭わずに目を凝らし字面を追う。何度も何度も繰り返し読み、時に後ろから読んでみたり、光に透かしてみたりした。それでもまだ安心できず、私はライターを取り出した。 「おい、何をするつもりだ」 「炙り出しでもあるんじゃないかと」 「ばかたれ。そんなのありゃせんわい」  そうした厳密なチェックの末に、私はようやく署名した。  待ちくたびれた松久はそれをひったくるように手にすると、迷うことなく自身の名前をスラスラ書いた。さらりと大きな決断を下す器のでかさは流石であるが、いささか味気なくも思われた。  何はともあれ、これで契約成立である。私は無償でこの豪邸を手に入れた。  めでたしめでたし。  ……とはならなかった。
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