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 松久は「見せたいものがある」と言って座敷を出た。  私は黙って付き従うが、心中はあまり穏やかではない。お望み通り家を譲り受けたというのに、後になってから『あの子』だの『見せたいもの』だのと気になるワードを挙げられては看過できようはずもない。契約前に言うのが筋ではないのか。「内容次第で契約はご破算にするぞ」と釘を刺すと「好きにしろ」と彼は笑った。 「すまんな、前もって言ってしまうと話が進まないと思ったんだ」 「言わなかったせいでこうして手間が増えてるんだぞ」 「でもこうしてこの家にまで足を運んでくれただろう? 十分な成果さ」  廊下の突き当たりにて、松久は足を止めた。 「『座敷童がいた家だ』なんて言ってたら、お前、ワシの話に耳を傾けてくれたかね?」  目の前に大きなふすまが立ちふさがる。そこは奥座敷の真ん前だった。
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