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 藪から棒に何を言い出すのだろうか。  私が不思議そうな顔をすると、少し前の話になるがと前置きしてから松久は語った。  それは彼が三十半ばの頃のこと。両親から正式に跡目を任され同時に子宝にも恵まれて、忙しくも楽しい日々を送っていた。  そんな日の夜、リビングにて一人晩酌をしていた松久の耳に物音が届いた。トタトタトタ……と子供が廊下を駆ける音で、数分にわたり聞こえ続けた。  娘が寝ぼけて走り回っているのかな、そう思った松久は愛らしい姿を記録すべくビデオカメラを携えてこっそり音のする方へ行った。そして柱に隠れてこっそりカメラを廊下へ向けた。  レンズ越しに走り回る女の子がいた。  しかしそれは娘ではなかった。  一言でいえばこけしのような女の子だった。白い着物に赤い帯を身に着けて髪型は黒のおかっぱ、目は細く頬がふっくらとして丸い顔立ち。何が楽しいのか、両手を翼のように広げて廊下を行ったり来たり駆けている。  今日日こんな古風な子供が、しかもこんな夜更けに忍び込むとは思えない。これは霊的な存在に違いないと、松久はビデオカメラを回し続けた。  翌日ビデオを再生したが、そこには月明かりの廊下しか映ってなかったということだ。
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