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「親父に聞いたところによると、その子ずぅっと前からこの家に居るらしい。んで、特に実害も無いし家業はずっと右肩上がりだったから、これは座敷童に違いないと、大切に見守ってきたんだとさ」
「座敷童は子供にしか見えないって聞いたことあるぞ」
「この家に限っては家督を継いだ者だけだな。まあ当時は細かいことはどうでもよかった。手のかからない子供が一人増えたくらいにしか思わなかったよ」
目を細め、懐かしそうに松久は語る。
「でもな、娘が大きくなるにつれてもっと家族のために頑張らなきゃって気持ちが強くなった。八方手を尽くして降りかかる苦難に備えようと苦心したよ」
「お前は真面目だからなぁ」
「そんな折にワシの目に留まったのが座敷童だ。座敷童っていうのは、家に居る間は幸運をもたらすが去ったあとは不幸をもたらすと言われている。だからワシは何としても居続けてもらいたいと考えて、あらゆる手でもてなした。お供え物を寿司やステーキにしてみたり、流行りのゲーム機も用意した。ついでに専用のお座敷も作ったんだ」
「それ座敷童に効果あるのか?」
「こっそり様子を見る限りだと、一応堪能してくれてるようだったよ」
「私だったら二十四時間年中無休で堪能しちゃうね」
「何十年も堪能しろ、と言われたら?」
考える間もなく私は答えた。
「バカ言え。そんなの監禁と同じじゃないか」
「そうだな、お前の言う通りだ」
自嘲気味に松久は言った。「確かにワシはバカだったよ」
座敷の入り口の隣にスイッチが配置してある。電気をつけたり消したりする普通のタイプのものなのだが、松久がパチリとやると、ふすまが重々しい音を立てて動き出した。ゆっくりと、なんと頭上にスライドしていく。下から端面を覗いてみると、驚くことにふすまの正体は厚さ十センチほどのコンクリートだと判明した。
ふすまがすっかり上がりきると部屋の全貌が明らかになった。これが松久の言う座敷童の部屋なのだろうか。おもちゃが山と積まれているのが目に付いた。
しかしもっと気になるものがあった。それは黒光りする鉄格子だ。ふすまの裏あったようで、今もなお外界と部屋を隔てている。
これでは部屋と言うより牢獄ではないか、私はそう思い至り息を呑んだ。
松久は黙って頷いた。
「ワシは座敷童を監禁したんだ」
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