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 改めて部屋の中を見てみよう。  薄型テレビ、最新ゲーム機、シャワールーム、エアコン、冷蔵庫、羽毛布団。広い空間はそれでもなお十二分にスペースがあり、テントとハンモックも完備するので室内に居ながらアウトドアな気分も楽しめそうだ。こんなお座敷、他には存在しないだろう。牢獄に至っては言わずもがなだ。  いくら金持ちだからと言って冗談や酔狂でこんな部屋は作るまい。この部屋は言わば今までの話が嘘ではないと裏付ける証拠だった。 「お前、一体なんてことをしでかして……」 「触るなっ!」  松久が突然大声を出すので私はびくりと硬直した。何気なく鉄格子に触れようとした手は数センチ手前で虚空に止まる。「まだ電流が流れてるんだ」と穏やかに言って、松久はもう一つのスイッチを押した。私は肝の冷える思いがした。  鉄格子のカギを開け我々は部屋の中に入った。座敷童にばれないように少しずつ工事を進めるのは大変だったと松久は言った。そしてお菓子やおもちゃで誘い込み夢中になっているところを鉄格子の扉でガチャリ。電気を流したのはついでで、ふすまは見栄えを良くするために作っただけだとのこと。気が狂ったのかと疑いたくなるエピソードだった。  ところが、私が部屋の中を見渡しても座敷童らしき姿は見当たらない。 「逃げられたのか?」 「そうなんだよ。二、三か月はここで食っちゃ寝してたけど、いつのころからか姿を見せなくなっていた。やはり人の手に負える存在ではないらしい」  そして家が傾き始めたのもその頃だったと松久は言った。  まず両親が病で他界した。それをきっかけに従業員もお得意様も次々に離れて家業はみるみる右肩下がり。そして妻も娘を連れて出て行って天涯孤独の身の上となる。ここまで実に一年とかからなかった。 「天罰が下ったとしか思えない急転直下の衰退だったよ」 「監禁なんてするから、座敷童が仕返しでもしたんだろう」 「いいや、それは違う」殊更はっきりと松久は言った。 「冷静になった今ならよく分かる、全てワシの至らなさが原因だ。一人でもやっていけるくらいにしっかり店を受け継いでいれば、みんなが離れていくことはなかった。座敷童がいようといまいといずれはこうなっていたんだ」 「この家の衰退は座敷童により起こったものじゃないから安心して貰ってくれ、って言いたいのか?」 「保証は出来ない。だが少なくとも座敷童も元凶たるこのワシも家からいなくなるわけだから、もう不幸が訪れる道理は無いはずだ」  人の道理が通用すればな、と松久は力なく笑った。 「さあ、最後に庭へ行こう。片づけを済ませれば引継ぎは全て終了だ」  松久の後ろを私は歩いた。その背中は先ほどに比べ少し寂しそうだった。
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