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【happy birthday】
そう、それは雨の日。
6月の始め位は毎日のように雨が降っている。午後4時を回っても空は雨雲で太陽も見えずまるで夜みたいに暗かった。雨の中、とある小学校のチャイムが鳴り響き学校にいた生徒達が次々と傘を差しながら出てくる。そして、その学校にいた一人の少女は青い傘に赤い長靴を上履きから履き替えて急ぐかのように走っていった。
赤い屋根の家に着き水色のスカートのポケットから白い兎のキーホルダーが付いてる鍵で玄関を開けるとまだ誰も帰って来てないないか少女は確認して二階の部屋に『ARISU』と書かれてある扉のドアノブに手を掛け部屋に入った。
部屋はベッドにウサギのぬいぐるみ、ピアノ、本棚、机等があり少女は机の上に赤いランドセルを置き、引き出しから封筒みたいなのを出してまた急いで玄関に向かい赤い長靴を履き玄関の鍵を閉めて青い傘を差し、ある場所に向かった。
其処は裏路地のような所で誰も通らない所にお店があった。少女はそんな場所に迷うことなくそのお店に到着した。
何故ならそのお店は少女の姉のお気に入りの店で少女も少女の姉も常連客だからだ。少女はお店の扉を開け傘をしまい店の店員らしき人物に話しかける。
「こんにちは、店長さん。まだアレはありますか?」
どうやらその人物はこの店の店長のようだ。店長は背は高く帽子を被っており、声は低い男性なのにお姉口調の何処か不思議な雰囲気がする人だ。少女に優しく微笑み少女が言っていた「アレ」と言う物を持ってくる。
「いらっしゃい有栖ちゃん。アレならあるわよ」
少女の名前は有栖と言う。有栖は何処かホッとし店長があらかじめ用意したのか箱を有栖の前に持っていき中身を確かめさせる。
「これで合ってるかしら」
「はい、これです」
確認を終えて店長は中身の入った箱にとてもシンプルで可愛らしくラッピングし紙袋に入れ有栖に渡す。
有栖は家から持ってきた封筒のお金を店長に渡すが。
「お代は良いわよ、これはあげる。茜お姉ちゃん喜ぶと良いわね」
「はい、今日はお姉ちゃんの誕生日だから」
店長は有栖に紙袋と花束を渡した。その花は赤い薔薇が二本だけだった。有栖はその花束を受け取り不思議に思った。
「これは私から茜ちゃんへのプレゼントよ。渡してくれる?」
「わかりました」
店長は「有り難う」と言い、有栖は微笑み姉宛のプレゼントと店長から渡された花束を持ち店を出た。
「悲しきアリスよ。どうか赤の女王を憎まないで」
有栖は裏路地を出て家に向かった。走って転けると大変だから有栖は走らず歩いて帰ることにした。鼻歌を歌いスキップをしながら帰る有栖は家が見えたのか鍵をポケットから出し傘を畳、鍵を鍵穴に差し込み回すが扉が開かなかった。
「あれ?」
有栖も不思議に思い自分が閉めたのを確認するために記憶を遡る。もう一度鍵を差し込み回し扉を開ける。
「やっぱり開いた。お姉ちゃんとお母さん、帰って来たのかな?」
玄関には靴があり二人は帰ってきていることを確認をする。有栖は傘立てに傘を差し長靴を脱ぎ、姉に早くプレゼントを渡したいのかそわそわしていた。
「お姉ちゃんとお母さんはリビングかな?」
リビングの扉に手を掛け開くと有栖は持っていた花束とプレゼントの入った紙袋を落とした。其処には倒れた母親と母を刺したと思われる包丁を持った姉が立っていた。
「お母……さ……ん?」
有栖は倒れている母親の所をよろけながら行き膝から崩れ落ち母親を揺さぶった。
「お母さん……お母さん!」
何度揺さぶっても起きる気配のない母親に有栖は涙を流した。先ほどから立っていた茜は手に持っていた包丁を床に落とし何かぶつぶつと独り言を喋ってよろけなから玄関の方にへと歩いていったが、有栖はそんな事を気にせず何度も母親を揺さぶり泣きながら呼んでいた。
時間が立っていく内に有栖は母親の遺体の側で眠ってしまい、目を覚ますと警察のサイレンの音が家中に鳴り響いた。サイレンの音に気付いた有栖は辺りを見渡していると警察二人が家の中に入り有栖と母親の遺体を見てヒソヒソと何か話した後、無線機みたいなので会話をしていた。
「君はこの家の子供?」
警察の一人に話しかけられるが有栖は耳も傾けずただ母親の遺体を見つめていた。有栖は母親の遺体にしがみつき離れようとしない。警察の二人もどうしたら良いのか分からずそっとしておくことにした。そして更に時間が立っていくと次は救急隊が駆けつけ有栖の母親の遺体に近く。
「お母さんに触らないで!」
有栖は突然怒鳴り母親を近付けないかのような目付きで救急隊を睨みつける。警察も困り果てしばらく様子を見ることにしたようだ。
また眠りについた有栖が目を覚ましたのは真っ白な天井に壁一面も白い部屋。あるのは椅子と小さな棚と有栖が寝ていたベッドだけだった、窓もあり外の雨を見る有栖は静かに涙を流した。
有栖が目覚めて数分位立つとドアの方から誰かがノックをし有栖はそれに気付き涙を拭き「どうぞ」と答えると、入ってきたのは有栖の家に訪れた警察二人とスーツを着た40代位の男性だった。スーツを着た男性は有栖のベッドの近くに寄り、そっと有栖の手を握る。
「今まですまなかったね。これから一緒に暮らそう」
有栖はえっとした顔をして状況がよく分からなかったのかスーツ姿の男性に質問をする。
「あなたは誰ですか?」
スーツ姿の男性は悲しそうに、でも少し微笑んでいるかのように自己紹介をした。
「私の名前は七海 文斗(あやと)。君の父親さ」
有栖の父親と名乗った男性に有栖は疑問を浮かべた。何故なら有栖には父親とは会ったこともなければ名前すら知らなかったのだから。
「私にお父さんはいません。いるのはお母さんとお姉ちゃんだけですし、私の名字は七海でなはく有栖川です」
有栖は否定するが父親と名乗った文斗の後ろにいた警察二人が説明をした。
「有栖ちゃん、この人は正真正銘君のお父さんだ。君のお母さんの元旦那さんって言えば分かりやすいかな。有栖川と言う名字はお母さんの名字なんだよ」
「そして君に残念なお知らせがある。君のお母さんは亡くなった。犯人は君のお姉さん、七海 茜さんだ」
有栖はその言葉を聞いたとき目を見開き、少しずつ顔が歪みながら目には涙が溜まって静かに泣いた。
有栖の父親、文斗もただ何も語らず有栖の背中を擦ることしか出来なかった。
有栖はしばらく病院で安静を取り無事、退院が出来た。病院の外には有栖の父とメイド服を着た女性と執事服を着た男性が黒い車で出迎えていた。
「有栖、退院おめでとう。さっ、君の新しい家に行こう。荷物はもうまとめてある」
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