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有栖の父は有栖に手を差し出したが、有栖は何も言わずに父の手を取り車に乗った。文斗も有栖の隣に座り、執事とメイドも車に乗った。車の運転は執事で隣にメイド、後ろは有栖と文斗が乗っているが何も話さずただ静かに座っていた。文斗やメイドと執事は気まずくなりどうして良いのか分からず前の運転席の近くにあるミラーで三人はアイコンタクトしていた。
ーーどうしましょう。とても気まずいですわーー
ーーお嬢様も久しぶりに家に戻られるから緊張しているだけかも知れませんよーー
ーーだか、あの子は私を忘れている。無理もない、妻が出ていった時は有栖も小さかったしーー
と、三人でアイコンタクトをしていると、ずっと車の窓の外を見ていた有栖が口を開いた。
「あの、一つ聞きたいことがあるのですが」
他人行儀に言う有栖に三人は驚いたが聞きたいこととは何だろうとも考えた。
「何でもお聞きください」
メイドが答えると、有栖は悲しそうな顔をしてメイドに質問をした。
「お姉ちゃんは、茜お姉ちゃんは……」
茜と言う言葉に三人は反応したがなんと答えれば良いのか戸惑った。その少しの沈黙の中、有栖の質問に答え口を開いたのが執事だ。
「茜様は現在行方不明となっており、警察の方が捜査しています」
執事は冷静に答えた。有栖は少し悲しそうにしていた。そしてまた車の窓の外を眺めた。しばらくすると大きな屋敷が見えてきた。有栖は何処か懐かしそうに屋敷の方を見つめていると車は屋敷の門の前に止まった。車の扉を執事が開け父が有栖の手を取り有栖は車に降りた。
「今日からここが君の家だよ」
有栖は大きな屋敷を眺める。何処か懐かしいような、一度来たことがあるかのような感じがするかのように有栖はスカートをギュット握ると有栖は文斗に質問した。
「私はここに住むの?」
「そうだよ、有栖はここに住むんだよ。君の家なのだから」
有栖は不安になりながら屋敷の中に入り辺りを見渡し、文斗とメイドと執事の三人で有栖の部屋に案内した。
「ここが有栖様のお部屋です。何か必要なものがあれば我々に仰って下さい」
「ありがとうございます」
「敬語じゃなくていいよ、有栖は私達の家族なのだから。それと後でまた来るからその間に休んでなさい。有栖に皆の事を紹介しよう」
「……わかった」
バタンと扉の閉まる音がすると有栖は部屋を見渡しあるものに気づく、それはちょっとおしゃれな机の上に有栖が買った紙袋があり中身を確認すると有栖は安心したのか顔が緩んだ。
「良かった」
紙袋を持って机の引き出しにしまうとドアからノックの音と声がし扉が開くと朝、有栖の病院にいた執事だった。
「失礼します。有栖様、旦那様がお呼びです」
「は、はい」
有栖は若干緊張ぎみに返事をして執事と一緒に部屋を出る。長い廊下を歩いていると執事が有栖に声をかけた。
「申し遅れました。私は執事の日辻 碇(ひつじ いかり)と申します。どうぞお好きなようにお呼び下さい」
「は……はい」
「有栖様、そう緊張する必要はありませんよ。有栖様と私は一度会っているのです。その時は有栖様はまだ赤子でしたので覚えていないのも無理はありません」
「そ、そうなんですか」
有栖は少し納得して日辻と歩いていると大きな扉が目の前にあり二人のメイドが扉を開けてくれた。開けた扉の先には有栖の父親の文斗と、その父親の隣にいる白い髪で茜と同い年位の少年、後はメイドや執事達が並んでいた。
「有栖、よく来たね。紹介しよう、この子は私の息子でもあり、君のお兄ちゃんだ」
「はじめまして……じゃ可笑しいかな。久しぶり有栖、君は覚えてないかも知れないけど僕は正真正銘、君のお兄ちゃんだよ」
「お兄ちゃん?」
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