【Garden of Persimmon】

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【Garden of Persimmon】

兄と名乗った青年は有栖に近付き同じ目線になるようにしゃがみ笑顔で有栖に話しかけた。 「そう、お兄ちゃんだよ」 「あ、有栖と言います。今日からお世話になります」 有栖は緊張気味になりながら雪にぺこりとお辞儀をしていたが雪は少し悲しそうに笑いながら有栖を優しく抱きしめた。 「ごめんね、辛かったね」 雪は有栖を優しく抱きしめながら静かに涙を流し有栖はその温もりが心地よかったのか雪を抱きしめ返した。しばらくその時間が過ぎると文斗は少し雪に嫉妬しながら咳払いをして話を始めた。 「再開のところ悪いが、これからの事をどうするか皆で話し合いをしようと思う」 父の咳払いで正気に戻った雪は流した涙を拭くの袖で拭き有栖と一緒に椅子に座る。 「まず、有栖。君はここに初めて来た感じにはなってしまうが、まだ有栖が凄く小さい時に有栖はここに住んでいた。だからここにいる皆は有栖の事を知ってる。慣れないかもしれないが少しずつ皆と仲良くしてくれないか」 文斗のその言葉に有栖は安心と不安が感じたが有栖は誤魔化すように笑った。 「わかった。ここにいる皆と仲良くなれるように私、頑張る」 その言葉を聞いた文斗や雪、周りにいた執事やメイド達が安心したようにホッと胸を撫で下ろした。すると文斗と雪は同時に立ち上がり有栖の手を取った。 「父さん、有栖は僕が案内するから父さんは仕事しててよ」 「何を言っている。雪こそ疲れているだろ、お前も部屋で休んでいなさい」 二人はどっちが有栖に家の案内をするかで言い争っていた。執事やメイド、そしてオロオロしている有栖はその様子を見ていたら一人の執事が提案を出した。 「でしたら、お二人で案内されてはどうですか?」 二人は互いに見合い渋々その提案に乗った。有栖もホッと安心したかのような表情して二人に近付き二人の手を取る。 「えっと、その。早く……行きましょう」 「そうだね。行こうか」 「では、案内しよう」 二人は有栖の手を優しく握り部屋を出て色々所を案内した。まず二人が案内したのは先程と違い普通の扉だった。有栖の父……文斗は扉を開けるとそこは本が沢山ある部屋だった。有栖は驚き少しはしゃいでいたのを二人は見ると有栖は少し恥ずかしそうにしはしゃぐのを止めた。 「凄い! こんなに沢山本がある」 「気に入ってくれて良かった」 「ご、ごめんなさい。本がいっぱいあってついはしゃいでしまって」 「気にしなくて良いよ。何か有栖の気に入る本があればいくらでも読んで構わないよ。此処にあるものはみんな使っているからね」 兄の雪は説明するように有栖に笑いながら言うと有栖はさっきの事がまだ恥ずかしかったのか顔を赤くし両手を頬で押さえながら返事をした。 「……は、はい」 「では、次行こうか」 有栖は二人の間を入るように並んで歩いた。次に二人が案内したのは外の庭。庭は薔薇が所々咲いており薔薇以外の花も咲いているが一番多く咲いているのが薔薇だった。その薔薇も赤だけの一種類じゃなく、黄色、ピンク、白、黒、そして滅多に見ることが出来ない青の薔薇も咲いていた。 「……こんなに沢山お花が、とても綺麗」 有栖は目をキラキラ輝かすように薔薇や他の花を見て回るとそれを止めるように雪は有栖の手を握った。 「ここは迷路みたいにとても広いから僕の手を離さないでね」 「……は、はい!」 その様子を一部始終見ている父親は雪に少し嫉妬したのか有栖の空いている手を笑いながら握った。おかけで有栖の両手は雪と父親で使えなくなってしまう。 「有栖、私もよく迷ってしまうから握っててくれるかな?」 「……良いですよ!」 「……父さん、歳?」 「私はまだ若い」 執事やメイド達から見たらまるで本当に家族のように見えた。だが執事達は笑っているが何処か寂しそうにしているような顔でも見える。 二人はアリスの手を握ったままそのまま庭に案内すると有栖はぽつんと建つ館に目を止め二人に聞いた。 「……あ、あの。お父さんとお兄ちゃん、あのお屋敷は何ですか?」 「あれ屋敷はというより、館だね」 「良いかい有栖。あの館には決して入ってはいけないよ」 父は有栖の前にしゃがみ視線を合わせ深刻そうな顔をしながら有栖にそう言う。そんな有栖は父にそう言われどうして入ってはダメなのか分からなかった。
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