30人が本棚に入れています
本棚に追加
ある程度、先生に分からないところを教えてもらうと、先生が机に置いてあるポットから、お湯を急須に注ぎ、お茶を淹れてくれた。
「山本は、どうも、集中力が切れやすいな」
言って、微笑む先生はとても優しい顔をしていた。
私は途端、今までずっと胸のうちに秘めていたことを、先生に告げようと決心した。
先生がマグカップにお茶を注いで、私の前に置いてくれると、私は先生の顔をしっかりと見つめ、
「先生、携帯電話の番号、教えて下さい」
勇気を振り絞って言った。私はしっかり先生の顔を見据えて、視線を逸らさなかった。すると、先生は急に、泣き出しそうな顔をした。
「……教えて下さい」
私が食い下がると、先生は目を逸らし、また悲しそうな顔のまま、手をおでこにあてて、考えこんでいた。窓から差す光が先生の顔をはっきり見せてくれない。
すると先生は、ふう、とため息を吐くと、私に、切なそうな、壊れそうな、危うい笑みを零すと、
「ダメだよ。今は教えられない」
きっぱりと断られてしまい、私はそれが辛くて、
「どうしてですか。クラスメイトでも、担任の先生のケー番知っている子も沢山いますよ。先生と連絡が取れたら、私、もっと勉強頑張れると思います」
力強く私が言うと、また先生は困った顔になって、
「僕が今、君に電話番号を教えるのは筋違いだからだよ。君の顔がこの距離で見えてしまう今は……」
ぼそりとそう呟くように零すと、先生の曖昧な答えに私は悔しくなって、
「意味がわかりません! 勇気を出して伝えたのに……。先生のわからずや!」
私は、机にあったノートをおもむろに掴むと、そのまま準備室を出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!