P.S.まぶたにきらきら雪が降る

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P.S.まぶたにきらきら雪が降る

 彼と恋人同士になってから、メイクボックスにアイシャドウが増えた。今までも比較的明るい色を好んでいたからメイクボックスはカラフルだったけれど、それ以上になってしまった。  新色があればつい買ってしまうし、その新色を初めてつける日は、決まっていて。 「今日のも新色か?」  つい一昨日買ったそれは、シンプルなベージュだったけれど、上に新しいシャドウを重ねていた。  小さなラメが入ってきらきら光るようにと。  もう冬に入ったといっていいだろう。雪が降るのはまだまだ先だろうけれど、さきどってみたかったのだ。  その、冬の雪をイメージしたまぶた。きっとよく見て「かわいい」と言ってくれるだろう、と思ったのだけど。  すっと近付けられた顔。くちびるに触れたのは、今日はキスではなかった。 「今日はキスされたいの?」  くちびるをかすめたのは、吐息。体温を持ってしっかりあたたかく、そして命が息づいたやわらかな吐息だ。  かぁっと顔が熱くなってしまう。  アイシャドウなんて口実だったこと。  彼に見てもらうため。  近付いてもらうため。  ……くちびるに触れて貰うため。  そんな、恥ずかしいことを。  きっと真っ赤になっただろう私の頬をそっと包んで、彼は続けた。 「メイクじゃなくて、言葉で言ってみな?」  (完)
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