まあ、あって困るものでもないし……。

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 その日の晩、私は便箋と封筒を前に考え事をしていた。  無論、手紙に何を書けばいいのかーーということである。  まずは、彼女のお母さんを気遣う言葉を書くべきだろう。これは決まりだ。  その次に、恋人らしく『好き』とか『早く会いたい』とか、書くべきなのだろう。もちろん、あまりしつこくないように、女々しすぎないように、言葉を慎重に選ぶ必要はある。  そして最後に、君からの手紙を心待ちにしている、みたいな言葉で締めくくるーー。  私はパソコンで入念に下書きをし、満足のいく文面が出来上がってから、筆を執った。  最近はメールやSNSばかり使っていて、手紙という連絡手段を取るのは久しぶりのことだった。最後に手紙を書いたのは、果たしていつのことで、相手は誰だっただろう?  記憶を辿ってみたが、思い出すことは叶わなかった。  彼女への想いをしたためた手紙をポストに投函したときには、既に日付が変わってしまっていた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加