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Love is blind?
ンドンの大学に留学したメイは、卒業後に就職、そのまま日本に帰ることも殆どなく、数年が過ぎた。
まだ若い、外国人の女の子がたった一人で、きっと辛いことや悔しいこともたくさんあったのでしょうね。でも持ち前の根性で、コツコツとキャリアを築いて、それなりの評価を得て、信頼出来る幾人かの友人も出来て、生活も安定した頃、ルシアンに出会った。
メイが勤めていた会社が主催する、チャリティー•イベントでのことだった。
「ベルモント伯爵家所有の森での雉撃ち体験とか、エッジウェア卿のスコットランドの領地でサーモン•フィッシング指南とか、そんな感じの品で埋め尽くされた、チャリティー•オークションでした。でも今考えたら、何の為のチャリティーだったのかな?」
と、メイは明るい声で笑ったわ。
私もその類いのチャリティーなら、何度かお目にかかったことがあるわね。オークションじゃなくてシャンペンとかカクテルとか美味しいカナッペなどが、ふんだんに提供されるパーティー形式だったけど。例えばヨットとかジャガーとかに各々入札するタイプのやつね。
品物はさっさと売り捌いて、酒代とか会場代もまとめて寄付すれば、よっぽど効率がいいのにと、いつも思っていたわ。今でも思っていますけどね。第一、チャリティー目的のパーティーに着飾って出掛けるのなんか厭らしいわよ。
メイが死んだ夫と出会ったのも、そんな華やかな場所だった。おまけに彼はとびっきりの美女をエスコートしていて、それは目が眩むような光景だったと、今でもメイはうっとりと思い出した。
ルシアンに声を掛けられた時は、まるで夢のようだった、と。
どうして私なんかに? と。
「ちょっと待った! ガールフレンド付きで来たのに、あなたに近寄って来たの?」
「ガールフレンドじゃなかったんです。寄付を頂いたベルモント伯爵の奥様で、いらっしゃれないご主人の代わりに、エスコートを頼まれたそうです。伯爵とはお仕事上の付き合いがあったので」
うっとりするような、素敵な若い男性は、積極的ではあるけれど、あくまで紳士的だった。
「おまけにお金持ちだなんて、絶対何か裏があると思いましたよ、最初は。完璧過ぎて、逆に胡散臭かった」
「浮かれた小娘にしては、なかなか冷静ね」
「とは言っても、せいぜい既婚者であるとか、多額の借金があるとか、ギャンブル狂いくらいかと思っていたのですけどね」
「充分よ」
それくらいの欠点なら甘んじてもいいと、思い込んでしまったのね。恋は盲目って、こういうことなんでしょうね。
何にせよ、彼の強い押しに喜々として流され、二人は出会ってからたった六ヶ月で結婚した。
幸せの絶頂にあって、メイは夫となった人に勧められるまま仕事を辞めた。
妻は家庭を守り、夫は妻子を養うべきだと、今時ちょっと何を言っているのか分からないけれど、同じような価値観の親に育てられたメイは、特に抵抗もなく、夫の意志に従った。
別に専業主婦が悪いなんて言っていないのよ? 収入がないだけで、立派な職業だし、簡単な仕事だとは思わない。決まった休みもないしね。
でも昔はいざ知らず、今は男にだって家事は出来るし、女は仕事ができるわ。どちらかが何かを犠牲にする必要なんてないわ。
それにね、個人的な考えだけど、女はお金を持っていた方がいいのよ。いざって言う時に、自由が買えるから。
せめて子供が出来るまででも働けばいいじゃない。いいえ逆に、子供がいない若い夫婦の家庭なら、そんなに腕の振るいようもないのでなくって?
今私が考えたようなことを、当時のメイがチラッとでも思わないことはなかったわ。そりゃそうでしょうよ。女一人、異国の地でそれなりのキャリアを築いてきて、同僚や上司も惜しんでくれて、迷わないはずはなかった。
けれど幸せだったのよ。
少々の難があっても、愛する男性との結婚と言う夢が、全てを凌駕してしまった。
始まりは確かに幸福だったのに。
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