3.本物の恋人と仮初めの恋人

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ここに来るのは2度目だし、会ったとすればあの男しかいない。訳のわからないことを言って絡んできたオッサン。慧治に会う直前に出会った男。 こんな顔だったかと思って見詰めてみたが、そもそも顔なんてよく見なかったし覚えてない。 でもあの時より見栄えがいい気がする。 服装のせいかもしれない。あの時どんな服だったかも覚えていないけれど、今日の彼はスーツを着ている。暗くてよくわからないけど、黒かな。 でもネクタイは黒じゃない。白だ。それをぼんやり見ていると、男が語り始めた。 「俺さ、今日結婚式に出席してきた。惚れた男の結婚式。なんで金まで払って行かなきゃならないんだって思ったけど、断れなくてね」 惚れた……男? 今、男って言ったよな。 ハッとして顔を見ると、彼は静かに微笑んでいた。 「君も何か辛いことがあったんだろ? なあ、今夜だけでいいからさ、仮初めに慰め合わない?」 雨音が強くなってきた。 彼は傘を持っていて、俺は持っていなかった。 一度傘の下に入ったら、濡れた体が震えているのがわかってしまって、もう一度濡れるのが怖かった。 それに濡れて帰ったらびっくりされるだろ? 面倒なやり取りは嫌いだ。 びっくりされなかったら、それはそれで寂しいし。 あー、面倒くさい。何もかも。 だから俺は―― 今夜は優しいオッサン――いや、お兄さんについて行ってしまった。
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