4.白いネクタイとピンクの毛布

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4.白いネクタイとピンクの毛布

運命の分かれ道。そんなの本当にあるのかな。 選んだ気になってるだけで、どっちを選んでも結局同じ場所に辿り着くんじゃないか。そんな風に思わざるを得ない場所に、俺は来てしまった。 傘に入れてくれた男に連れて行かれた場所、ここだよと彼が指さしたアパートは、昔下見に来て一目で却下したあのボロアパートだった。 呆然と眺めていると、男が何かに気付いた。 「あ、ちょっとこれ持ってて」 男は俺に傘を渡すと、隣の家の玄関に走って行った。玄関の前にゴミ袋――いや、猫がいる! 思わずそっちに向かおうとすると、男はインターホンを連打しただけで戻って来た。 「え、あの――」 「ああ、そこんちの猫。帰って来たの気付いてないみたいだったから」 それを家主に伝えなくていいのかと思ったけれど、男は俺の肩を抱いてアパートの階段に向かった。仕方なく移動しながら猫の様子を見守っていると、引き戸の玄関が少しだけ開いてすっと中に入って行った。 「2階だよ。上がって」 先に行く様に促されて、錆びた階段に恐る恐る足を乗せてみた。意外としっかりしている。俺の体重なら大丈夫かと思いながら上っていると下から声を掛けられた。 「次の段飛ばして。そこちょっとヤバい」 マジか。うっかり足を掛ける所だった。 「抜け落ちると厄介だからさ。後数年で取り壊すから、もう補修しないんだ」 ああ、だから安かったのか。そんなこと書いてあったか?
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