第三章 白い森

9/17

124人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
 濃霧で動けなかった一時間が、この細工に繋がってしまったのだろう。 「夏目、この絵は、複数人が描いているね」  内薗は、水彩画を見ていて、サインは一人だが、幾人かが描いていると指摘していた。 「あ、このサインは有希子の母親のものだけど、描いているのは晃だ」  有希子の母親は、華道の他に絵も描いていて、展覧会で賞も取っていた。そこで、賞を取った作品を確認してみると、晃が描いたものであった。 「だから、有希子の母親は、頻繁にこの家に来ていた。そして、晃は実際に描くアトリエを、人に見られないように、屋根裏に移した」  有希子の実家から金が振り込まれているのは、生活費だけではなく、絵の作成代金が含まれているのだ。 「晃は、この作品を仕上げている記録を消すしかなかった」 「そういう面もありましたか……この事件を未解決にしたのは、この後も、付近で犬の首が盗まれるという事件が発生し続けた事です。切り口が、ここの犬と同じで、同一犯だと言われています」   そこで、行方不明になっている、心中の生き残りが、この森に潜んで生きていると噂されていた。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

124人が本棚に入れています
本棚に追加