第四章 白い森 二

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 男性は驚愕した表情を浮かべ、助けを呼びに来たのだと、やっと記憶を取り戻した。 「死んでいる事も思い出しましたか?」 「あっ……」  男性の足元に水が溜まってゆくと、泥や水草が周囲に広がっていった。 「……死んだ……そうか……」  女性が窓を開けていたので、あっという間に、水が車内に入り込んできた。だが、運転席と助手席のシートベルトが切れなかった。 「女性は窓から外に出ていった……俺達は車内に取り残された……」  運転していた男性は、水に落ちた時に、温度差で心臓麻痺を起こしていた。水は冷たく、まるで氷のようであったという。 「死んだのか……そうか……」 「光に進むと成仏すると言いますよ。ええと、光は上のほうかと思います」  俺が天を指差すと、男性が笑顔になった。 「良かった……天使が笑っている……行ってみるよ……」
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