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笛木さんに比べたら私は軽く見られても仕方ない。
基本は地味子でありながら、パーソナルカラーがイエベで、しかものっぺりした顔なので、黒髪がどうしても似合わない私は髪を茶色に染めている。
服装も髪にあわせてカジュアル寄りなので、遊んでそうな地味子という男からしたらとっつきやすいと思われるのも仕方ないように思えた。
私としては妥協の産物以外の何物でもないので、非常に不本意ではあるけれど、妥協の目的が人間関係コストの低減なので仕方なかった。
似合わないのにやりたいファッションをやって生じる人間関係コストは決して小さくはない。
オシャレも美容も自分の為にやっているのだ。
そんな風に強く言える笛木さんはかっこいいし、羨ましく思える。
転勤社員のおしゃべりに曖昧な笑顔を浮かべてやり過ごしながら、私は考えていた。
笛木さんと一緒なら踏み越える勇気を貰えるかもしれない。
「あ、あのっ! 笛木さん、よろしければ、この後、一緒にお食事に行きませんか?」
私は終業後の時間に笛木さんに声をかけます。
「美川さん? どうしたの、 急に」
「えっと、その……」
私はちらりと転勤社員のほうを見ます。
今日の騒動の愚痴を共有したいという暗黙の誘い。
「ああ、そういうこと。いいわよ。フレンチ? イタリアン?」
笛木さんはそう言って笑いかけてくれた。
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