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「笛木さん。どうして、そんなことを言うの?」
私の叫びを聞いて、美川さんが近づいてきた。
男たちの精を浴びてドロドロになった姿で、悲し気な表情を私に向けてくる。
「どうして、って……せっかく綺麗になった結末が、あんな男たちにもみくちゃにされた挙句の、そんなみっともない姿でいいの?」
美川さんをもみくちゃにしていた男たちの不機嫌そうな視線は怖かったが、それでも私は美川さんに本音をぶつける。
「私がかわいくなったのは自分の為だもの。笛木さんも同じじゃなかったの?」
美川さんはそう言った。
「なんで私がっ!? こんな状況に賛同するの思ったの?」
「だって笛木さん、言ってたじゃない! オシャレも美容も男の為にしてるんじゃないって!」
「そうよ! それなのに、美川さんはあんな有象無象の男たちに媚びて抱かれるなんておかしいじゃない!」
「私は男の人に媚びてもいないし、抱かれてもいない! 私がかわいくあるために必要な栄養素を搾り取っているだけよ」
私は自分には認めがたい異質な価値観を恐れて、美川さんと口論になっていた。
「私の求めるかわいさの為に、私はサバトで男に身をゆだねることにした。目的はかわいさそのものだもの。でも、笛木さんは違ったのね」
美川さんは私のことを憐れむように見つめてくる。
「笛木さんは、男の為じゃない、とか言いながら、本心じゃ誰か素敵な男性を射止める為にオシャレも美容もしていたのよ」
こんな大規模なサバトに開催しなければならないほど、男性の精に依存する魔女という存在がまっとうな男女交際、ひいて結婚生活を形成することができるとは思えない。
なるほど、男の即物的な性欲を満足させることはできるかもしれないが、本質的には男を搾り取る行為でもある。ましてや、一人の男性の心を射止めるなんてことはできないという意味で、魔女というのは「男の為に何かをする」という行為からもっとも遠い存在なのかもしれない。
「そうね。私は……そこまですることはできないわ」
私は美川さんに敗北感を覚えながら項垂れる。
「帰り道を案内してもらえますか?」
私はもう二度とここにくることはないだろう。
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