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「おかえり」
お見合いを終わらせて部屋に帰るといつもの様に迎えてくれた赤い髪に私はホッとしてしまう。
「なんか食う?」
朝は何だか緊張してあまり食べていなかった私を気遣ってくれたのだろう言葉に笑って首を横に振る。
とりあえず部屋でゆっくりとしたくて部屋でスーツを脱ぐとモコモコした部屋着を着てメイクを落とす。
リビングのソファーに座り込んだところで最近、お気に入りのハーブティーが用意されてお礼を言って口をつける。中々に熱いから何度も息を吹きかけてからだけど。
休みでもない平日に夕方に家に居ることは珍しい。
もう少しゆっくりしたら今夜は外食しようかな~と考える。
「今日は外食しようか」
彼が作ってくれるご飯も一緒に作るご飯も美味しいけど、そう提案すると彼はいいよと頷いてくれた。
「機嫌いいな」
「え?」
「さっきから鼻歌でてる」
彼に指摘されるまで気づかなくて私は赤くなる。
恥ずかしい…。
「あのさ俺のことは気にしなくていいから」
「は?」
言われた言葉に浮かれていた気持ちが一気に強張って私の口から出た声は普段より固く低いものだった。
「お見合い、上手くいったなら良かったよ。
オメデトウ」
そう言って私と自分の分の空になったティーカップを彼は片付ける為、背中を向ける。
びっくり、したのだと少ししてから自覚する。
だって彼はいつだって顔を赤くして私のことを見ていて…かけられる言葉は素直じゃないのに、いつだって甘くて…。
いつだって彼の言葉は私を元気にしてくれたのに。
ボロボロ気づいたら泣いていて、
私はカップを洗っている彼の背中へ抱きついた。
「はぁっ?!」
突然のことに驚いた彼はシンクでカップを取り落としたらしく、完全に割れた音がした。
お気に入りのカップだったから悲しいけど今はそれよりもちゃんと言わないといけない。
そう思った。
「お見合いはね…上司の勘違いだったの」
そうラウンジで待ち合わせた取引先の専務には開口一番、謝罪されてしまったのだ。
どうやら他意なく私のことを話題に出したらしいのだが年齢的にもそろそろ結婚をとうるさい周囲によって、知らない間にお見合いはセッティングされてしまっていたのだという。
「話題っていうのは私が新人の頃とは見違えるくらい成長したって話で、専務としてはどんな新人教育をしてるのか聞きたかったらしいし…お詫びに高級ホテルの憧れのアフタヌーンティーを奢って頂いたの」
私のご機嫌の理由はそれだ。
いや…だって本当に憧れだったんだもん…。
まぁだからこそもう少し時間、おかなきゃ夕飯は食べれそうにないんだけどね。
「…だとしても、相手は悪い人じゃないんだろ。
だったら」
背中に抱きついているから顔は見えないけど耳が赤い。まだ溢れる涙背中で拭かせて貰っていたりするけど今までも散々、利用させて貰ったので今更、使用許可はとらない。
ずびっと鼻を啜れば私が泣いていることに気づいたらしい彼が勢いよく振り向く。
「なっ何で泣いてっ……」
驚いた後に何だか気まずそうに口を閉じる。
「わ、悪い…そうだよな、相手から謝られたって言ってたし…」
「……は?」
さっきよりも低い声が出た。
きっと目つきも普段とは比べ物にならないレベルで悪い気がする。
まず最初に私がフラれたって何で思うんだろう…。
確かにどう考えても相手とは釣り合ってなかったけどさ!
私のことを慰めモードに入ってる彼に仕返しも兼ねて回した腕に力を込める。
必死に力いれたから一瞬だけど彼は苦しくなったはずだ。思わずむせていたから間違いない。
「ねぇ」
私の中の彼は自分で思うよりもずっと大きくなっていたの。
「君と離れたくないって言ったらどうする?」
ズルい言い方で自分にうんざりした。
でも許してほしい。
私はいい年した大人で君への気持ちを認めることも簡単ではなくて。
それでも私達が出逢えた奇跡みたいな未来を願わずにはいられないくらい、君が好きなの。
回した腕を外したら、彼の胸元に痛いくらい強く抱き締められた。
頭上から私の頬に伝う滴が彼の涙だって気づくのにそう時間はかからなかった。
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