2:イチゴ男子はバイトする

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2:イチゴ男子はバイトする

何だか恥ずかしい夢を見た気がする。 失恋して大泣きしていると赤い髪の綺麗な男の子が現れて慰めてくれる、とか。 しかもその男の子は私が育てているイチゴって、 夢にしてもファンタジーすぎるでしょ。 仕事も忙しいし私、疲れてるんだろうな…。 とりあえず今の仕事が一段落したら、有給でも貰って少しゆっくりしようかな? 昨日見た夢を思い出しては恥ずかしさに顔が熱くなる。起きて顔を洗おうと起き上がった私は、 枕元に突っ伏すようにして寝ている赤い髪の男の子に気づいてベッドから転がった。 「嘘っ…」 夢じゃなかったの?! 大きな音をたてたせいか赤い髪の男の子は目を覚まして私の方を見ると昨夜と同じように頬に触れてくる。 「はれてるな…」 「あ、ああ…あれだけ泣けばね…」 昨夜の号泣っぷりを思い出して苦笑いするしかない。 会社には普段よりメイク盛っていかなきゃね。 あれだけ泣いたからか…この赤い髪の男の子のお陰もあるのか予想外にすっきりとした気分だった。 「私は会社に行かないと!えっと…君はどうするの?」 自分の育てたイチゴにはどう声をかけるのが正しいのか。そんなこと考える日がくるとはね…。 「あんたがして欲しいことあるなら何でもする」 返された返答に困ってしまった。 「して欲しいことね…あえて言うなら仕事を手伝って欲しいけど。それは無理…」 「わかった。じゃあ俺も一緒に仕事行く」 支度をしながら会話をしていたんだけど、 いつの間にかやる気満々になってる子がいるよ? 「いや無理でしょ?部外者は入れないし…私の仕事がどういうのかも知らない…」 「バイトとして雇えばいいだろ、行くぞ」 「え?!えーっ…嘘でしょ?!」 「先輩、チェックお願いします」 「この部分なんだけど…」 普段通りに始まった仕事。 だけど普段通りではないのが、 視界に赤い髪がやたらと入るってことだ。 というかあの子すごい普通に働いてるんだけど何なの?! イチゴってそんなことできたっけ??(混乱中) 私と一緒に出勤したあの子は流れで私の親戚になり、 そのまま上司と簡単な面談をしてバイトとして採用されてきた。 「あ、これコピーお願い」 「はい。さっき頼まれた資料作り終わったんで置いときます」 「早いな!助かるよ。 お前の親戚なんだよな、うちに就職狙ってんのか?」 「いや~そこまでは…」 急に話題を振られ私は笑うしかない。 いや確かに仕事は捗ってるし助かってるのは事実なんだけど…すごい心臓に悪い。 「あのさ…すごくテキパキ仕事してくれて助かるんだけど…大丈夫なの?君のこととばれたりしたら」 「俺が実はイチゴですって言って信じる奴がいると思うか?」 「それはそうだけど…」 「つか仕事のジャマ」 何かこの子、私には口悪いな! まぁ大丈夫ならいい…のか? 私も自分の仕事に集中することにした。 「先輩、結婚無しになったって聞いたか?」 「まじで?何かあったのかな」 「じゃなきゃ無しにはならないだろ」 「うわ~わたしだったら仕事とか出てこれない~」 「プロジェクトリーダーだって張り切ってるからな」 「結婚無しになったのってそれなんじゃね? あんま仕事に本気すぎる女って可愛くねーじゃん」 休憩室で盛り上がる後輩達に遠慮することなく私は中へ入って休憩室の中にある自販機でお茶を買う。 喉、乾いてたら仕事できないからね。 「別に陰口言うななんて言わないけど、 言う場所くらい考えた方がいいわよ」 こんな感じだから可愛いげないとか言われるのは自覚しているけど、 別に可愛いげあるとも思われたくないしね。 さ、仕事しよ! ストレッチしながら休憩室を出た所で赤い髪が目についた。 私は2本買っておいたお茶の1本を渡す。 たくさん働いてくれたし、これくらいはね。 一応、受け取りはしたけど何だか不機嫌そう? お茶が嫌いだったかな?と首をかしげていると、 「俺の出番がない」と拗ねたように呟いたと思えば、 近づいて私の耳元で囁く。 「かっこよすぎ、惚れ直した」 「っ、」 不意討ちだったし予想外も予想外で私は真っ赤になった。な、何言ってるのこの子?! 「何、俺のこと少しは意識した?」 「な、な、えっ?!」 「俺なしじゃいられないって言わせてやるからな」 あ、あれ?どういう状況これ。 私もしかして告白されてるの?! もしかして昨夜からそうだったんだろうか。 「それと俺別に食べたり飲んだり必要ねーから。 怪しまれない程度には飲み食いするけど」 「そうなの?」 「ああ、だからご褒美はあんたを触らせて」 「さ?!」 私が答えるより先に手を捕られ指を絡めてくる。 咄嗟に離そうとしたけど全然、外れない! 「少しだけ、いいだろ?」 そんな風に言われると無理矢理、離すのは気が引けてしまう。 「本当に、少しだけだからね…」 「ああ」 きゅっと強く手に力を込められる。 私はただこの状況に耐えるのに精一杯で、 手を握り返すことなんて出来なかった。
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