5:イチゴ男子の涙

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5:イチゴ男子の涙

連休を消化した私を待っていたのは積まれた書類。 まぁこれは予想通りというか解っていたことだし仕方ないことなんだけど。 問題なのは現在進行形だったりする…。 上司の更に上司からの頼みで断れるはずもなく、 指定された日時に私は場違いな高級ホテルのラウンジで会社のパーティー用の華やかめなスーツを着て相手を待っていた。 昼間から高級ホテルのラウンジとか、いかにもお見合いぽいよねー?うん、お見合いだからね! 現実逃避に他人事ぽく喋ってみました。 声には出していませんよ?そんな不審者、通報されちゃうから! ……うん自分でもまだ理解しきれていないけど、 連休明けに仕事をやっつけていたら上司に呼ばれ、 何だろうと思ったら更に上の上司の執務室に連れていかれて(この時点で泣きたくなっていた)、 何か重大なミスでもやらかしたのかと顔面蒼白になっていただろう私に告げられたのがこのお見合いだった。 お相手は……わが社の取引先の専務取締役。 現在35才。独身、×なし。 一応、取引先なので接待とかもあって私も面識がないわけではないけれど業務以外のことは一切、話した記憶がないし所謂、雲の上の人だ。 そもそも35才で専務で仕事は出来ると評判の方だし、しかも顔もスタイルも悪くないから当然、モテモテだ。私の会社の女性社員にもかなり評判が良かった気がする。 で、つまり私が何を言いたいかと言うと…何で私? ってことだよね。 いや、だって本当に意味が解らない。 そもそも婚約破棄したばかりだし、そういう意味では相手にとってもよろしいとは思えない。 やんわりと告げてみたけれど、先方からの申し出だし頼まれた以上はせめて会うだけでもしてほしいって上司の上司に言われたらしがない一社員が断る選択肢なんてあるわけない…。 仕方がない…のだ。 私は社会人で、会社に雇われている身で、 大人の付き合いを笑顔でこなしていかなくてはいけない。 お見合いをすることになった、と赤い髪の彼に告げた時、彼はただ一言「そう」と頷いただけだった。 何でって言われたら、ちゃんと事情を説明するつもりでいたから結局、報告だけで終わってしまって、 お見合い云々より、そっちの方が気になって仕方なかった。この後は直帰で構わないと言われているから、 すぐに帰ろうと決めている。 零れそうになる溜め息を堪えて私は現れた相手の方を出迎える為に立ち上がり笑みを浮かべた。
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