ある冒険者の遺言状

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「愛する子供たちへ  エリオット、マリアンヌ、オスカー。息災だろうか。私、君たちの父アダムは病床でこの文をしたためている。もう長くはないだろう。そこで後のことをメイドのカリーナに任せることにした。彼女ならうまく君たちをまとめてくれるだろう。  エリオット、君の母とは幼馴染だった。私の一番目の妻だ。彼女は村で一番優しい娘だった。まだ、駆け出しの冒険者だったころの私をよく支えてくれたものだ。今でも感謝している。エリオットは商人として成功しているようだね。噂を聞くたびに誇りに思っているよ」 「ふん、結局母さんと俺を置いて、旅に出たくせによく言う」  エリオットは再び酒のグラスに手を伸ばして、それをあおった。  カリーナは続ける。 「マリアンヌ、君の母と出会ったのはある国の王都だった。踊り子だった君の母とはいくつかの冒険も共にした。倒れかけた私に薬を浴びせられて何度も助けられたよ。子供たちは元気かい? あの小さかったマリアンヌが五人も子供を産んだなんて未だに信じられないよ」 「私が産んだ子供は七人。情報が古いのよ」  エリオットとオスカーはぎょっとしてマリアンヌを振り返った。 「そして、末っ子のオスカー。君の母と会ったのはまだ彼女が幼いころだった。でも、まさか十年後に再会して、あんな美人になっているとは思わなかったよ。彼女もまた、冒険を共にしていてね。ダンジョンでは剣を振う姿につい見惚れてしまったよ。オスカー、君もいい大人なんだからフラフラしていないで、剣でも振るってみてはどうか」 「おやおや、死んでからも説教されてしまったよ」  しかし、本人は反省している様子は見せない。オスカーは複数人の女の元を渡り歩いている遊び人だった。 「それで、続きは?」  マリアンヌが先を急かす。 「三人が集められた理由は分かっているだろう。私が残した財産についてだ。三人で仲良く分けるように」 「やった!」  思わず立ち上がったのはオスカーだ。 「三分の一と言っても、大変な額のはずさ。何と言っても英雄アダムが残した財宝だ!」 「ええ! 英雄の子供と言っても、これまでいいことなんて一つもなかったけれど、財宝が手に入るなら別よ」 「まてまて、お前ら。まさか全部金で、キッチリ三等分に出来ると思うか?」 「言われてみると……」 「くふふふ。まあ、心配するな。商人である私に任せておけ。物によっては、値が破格に吊り上がるものもあるだろう。英雄の装備とかな。絶対に高値で売ってやるぞ!」 「おお! 頼りになるな、兄さん!」 「こんな時だけ、兄などと呼ぶな」  とにかく遺産と聞いて三人の鼻息は荒い。
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