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その昔、彼らの父アダムは英雄だった。冒険者として旅に出て、王都を襲う魔物の群れを撃退し、数々の難関ダンジョンを攻略してのけた英雄である。当然、王国からの報奨金、ダンジョン攻略によって手に入れた宝が使い切れないほどあった。
「まずは屋敷だが、私の死後カリーナに金に換えてもらう」
「なんだ。屋敷だったら貰ってもよかったのに」
「まぁ、親父ももめる原因になると思ったんだろうさ」
「それも、そうね」
三人はにこやかに頷き合う。
「そのほか、聖剣やゴールドプレートなどの私の装備品。それに昔ダンジョンで手に入れた宝石やマジックアイテムなどの品々」
「おお、それそれ」
エリオットは目を輝かせてカリーナの方に身を傾けた。
「これらは非常に思い出深いものばかり」
「まさか、換金してはならないなんて言うんじゃないだろうな」
「よって、金と共に昔行った因縁のドラゴンの巣窟に置いておこうと思う。仲良く三人で取りに行きなさい」
アダムが亡くなったと知らされた時と同じぐらいの沈黙が流れた。
「置いておこう?」「どういうこと?」
「すでに私の手によって宝箱は設置済みです」
カリーナの本気の目を見て、三人はすべてを理解した。
まず、カリーナはただのメイドではなく、英雄アダムの弟子だということ。そうでなくては、ドラゴンの巣窟に無傷で宝箱設置など出来ない。
そして、英雄アダムはこの期に及んで、自分の子供を冒険者にすることを諦めていなかったということだ。
三人は椅子に深く座り込む。
「そういえば、幼い頃父に弓を習ったことがあるわ」
「私もだ。何かといえば剣を握らせたがって」
「僕なんて最後の言葉が剣でも振るってみてはどうかだよ」
はははと乾いた笑いがどこからともなくした。
「それでは皆様、これがダンジョンのある場所の地図です」
どこから出したのか、カリーナが地図をそれぞれに渡そうとする。
「「「要らない!」」」
三人は同時に声を上げた。
「本当に要らないのですか? お父様残した財産ですよ」
「残した財産といっても、冒険者に役立つ品ばかりだろう。私はもう商人として成功しているし、何よりもう年だ。確かに英雄の装備は魅力的だが、そこまでして行くつもりはない。しかもドラゴンの巣窟なんて傭兵を雇っても赤字が出るだろうよ」
「私も子供たちも店もあるわ。オスカー、あなたまだ若いから行って来れば?」
マリアンヌがオスカーを振り返る。
「勘弁してくれよ。僕は昔から身体が弱いんだ」
ゴホゴホとわざとらしい咳をした。
「ではこちらの遺書はお渡ししておきます」
「残したものは手紙一通か。旅にばかり出ていた親父らしいよ」
エリオットは大人しくカリーナから手紙を受け取る。
「手紙と言えば、子供のころ旅先からよく送られて来たな」
「そうそう。でもすぐに場所を移すから返事も出来ないの」
「お前たちもか。私の所にも一方的に……」
三人は父親から送られてきた手紙について語り合いだす。カリーナは音も立てずに部屋から出て行った。
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