Z-7

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ

Z-7

 電話に出ると、あれは何! と、野太い声が聞こえてくる。先を歩く広い背中の様子をうかがいながら、そっとボタンを押した。 「どないした? 仕事の電話か?」 「いや。どうも間違いみたいだ」  そうか、と言うと、また先を行く。フタバは胸をなで下ろした。  先日、大きな葬儀があった。その弔問客である女社長に声をかけられたのだ。「息子の仕事を手伝って欲しい」と。 「商品の試作品をね、特別会員さんに配って欲しいの」  そして、感想を聞いて欲しいという。試作品は全て宅配などは使わず、直にポストに届けるのがポリシーだという。 「心配しないで。このボタンを押したら、こちらでクレームは聞くようにしてあるから」  そう言って携帯電話を一台、差し出した。  そんなアルバイトを続けて一年になる。割がよく、少し蓄えもできた。  このお金があれば、イチロウの実家が救われる。  去年、イチロウの父が倒れた。それをきっかけに店が傾き始めた。一緒にいるとき、母親と電話で口論する姿を何度も見た。  唇を湿らせると、フタバは立ち止まる。意を決して顔を上げると、それに気づいたイチロウが振り返る。目が合うと、かあっと上気するのが分かった。  声をかけようとしたとき、思い出した。  左肩の感触。  叩かれると共にぶつけられた怒りは、一体何だったのだろう。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!