今夜は月が綺麗ですね

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「今夜は月が綺麗だなぁ」 S君が呟くにしては少しばかり大きな声で言った。 あたし(M美)と隣を歩くU君が振り返った。 「何言ってんだ。曇ってるだろ」 無粋なU君は空を見上げて笑った。 今日は中秋の名月……のはずだけど生憎空は黒い暗幕のような雲に覆われて月はおろか、星も見えない。 あたし達は3人幼馴染。小さい頃から兄弟のように育っている。 今は塾帰り。少し遅くなったからって、買い食いしながらのんびり家に向かって歩く。 そんな中で冒頭の一言。 発したS君はあたしに目配せした。 (ああ、そういうこと) いつも悪ふざけの過ぎるお調子者の彼にしては珍しい。 『今夜は月が綺麗ですね』これは愛の言葉だ。夏目漱石だったかしら。 アイ・ラブ・ユーを日本人が言うとこうなるでしょってやつ。 さて、この言葉。誰に向けて言ったのか……視線の先にはやっぱりU君。 この本来ロマンチックとは無縁のガキっぽい奴は、幼馴染の男の子に恋をしているの。 知っているのは同じく幼馴染のあたしだけ。 不器用で可愛らしい片思いを間近で見守っている。 「あー。そうね」 さっさと告白しちゃえばいいのにって思いながらU君の方を観察する。 しっかり者で、おバカでお調子者のS君とはよく喧嘩もする。でも本当はすごく仲良しだし、同級生なのに少し弟みたいに思ってることをあたしは知っている。
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