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「そろそろ行こうか」
「うん、そうだね」
立ち上がる高台くんに、私も立ち上がった。いつまでも、座っていられないこのベンチから……立ち上がった。
「あ、萌香……」
高台くんが、桜の木を指差した。その彼の指先を辿る。ほとんどが茶色で時々緑、そんな桜の枝先だった。
そのもう少し先の桜の木の枝、一つピンクの膨らみが見えた。“咲いてる”という表現はまだ早いけれど……ちゃんと、桜色している。
「萌香が『せっかく暖冬だったんだから、気を利かせて咲いてくれたって良かったじゃん』って言ったからじゃない?」
高台くんが、いたずらっぽい目をしてそう言った。あの蕾はもうすぐ咲くだろう。可愛い。
「あ、桜さんありがとう、もしかして、今慌てて咲こうとしてくれたのかな?」
桜の木の幹に両手を付いて、お礼を言った。
「そうかもしれないね」
「開花宣言!?」
「あ、萌香、開花宣言はね、チェックする桜の場所が決まってるし、咲く花の数も……正式なの調べようか?」
高台くんらしい言い方に笑う。
「ふふ、大丈夫! 私はこの桜だけで」
「そうだね」
高台くんも、私が手を当てた幹に左手を置いた。いつまでも何も言わない彼に振り返った。
「……ほら、萌香、壁ドン」
にこ。今度は私も一緒に、笑った。今年の桜の開花は随分と早いだろう。だけど、私たちは一緒に……ここで桜は見られない。
「頑張ってね」
「うん、萌香も」
にこ。高台くんが……最後にもう一度笑った。
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