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「今日、化学の益井先生とぶつかりそうになってね」
「うん、格好い……危ないね」
危ないのは、私の口。話の内容関係なく直ぐに格好いいと言いそうになる、この口だ。
「『お、高台! いつの間にか俺よりデカくなったなぁ!』って言われたんだけど……多分入学当初から、俺……益井先生より大きかったんだよね」
「ぶっ」
益井先生もゆくゆくは、どんだけ転けても官僚クラスまでは行きそうな、しかも、美し過ぎる生徒を目の当たりにして動揺したのではないかと、察してあげられる。
「何て返すのが正解だったのかな」
「何て返したの」
にこ。
「何も……返せなかった」
その微笑みを返されたのか。
「難しいよね、返し方」
ベンチっていいな。テーブルだと、向かい合わないといけない。だけど、横並びってさほど沈黙が苦しくない。
言葉を探して、泳がせた目にベンチの下の黄色い花が目に止まった。
「あ、タンポポ……」
一つだけ咲いている。
「西洋タンポポだね。もう寒くなるのにね……」
「あ、本当だね。季節外れ……」
「早く咲きすぎちゃったのかな、それとも……今やっと、咲けたのかな」
本当だ、タンポポの季節と真逆の今は……早かったのか、遅かったのか。
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