1571人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
移動教室で、北校舎から南校舎へ。
2階の渡り廊下は音楽室へ向かう生徒達の声が高く響いていた。いつものように、仲良しの奈々と明日香と雑談をしながら歩く。奈々に肘でつつかれ、前を見ると、高台くんだ。
彼のクラスは南校舎から北校舎へと戻るところなのだろう。彼と挨拶でも交わしたものなら、音楽室へ着く前に女生徒に囲まれるかもしれない。私は慌てて目が合わないように、顔を真正面へと向けた。
……そんな心配は必要なかった。彼はこちらを一度も見ることもなく、私とすれ違った。
……気づかなかったわけではないだろう。何を調子に乗ってたんだろう。彼にとっては……気にする存在ですら、無かったのだ。
あのベンチにいる時間だけ、私達は言葉を交わす。それだけだ。
「ひょー、相変わらず無表情」
「ちょっと左側が寒くなったわ」
奈々と明日香がそう言うと不思議そうに私を見た。
「何?」
「今日は云わないの? いつもの“はぁ、格好いい”」
「あ、うん、格好いい。余りの格好良さに言葉が出なかったぁ」
そう言って、笑って誤魔化した。いつも通りだ。いつも通りの高台くんだ。ちょっと、勘違いしちゃっただけ。学校でも話せるかなぁって。
最初のコメントを投稿しよう!