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3週目
ベンチの右端。彼の定位置。
私に気づくと、彼は、にこ。と笑って鞄を反対に置いた。
「先に言っておくね」
私が座ると空を見上げた彼が前置きをして言った。
「週間予報によると、来週の木曜日は雨なんだ。例え、小雨でも大事な時期に風邪でもひいたら大変だからね、雨なら……」
高台くんは、長い足に腕を預けた姿勢で私を軽く見上げると
「この時間は無しにしよう。俺は塾ででも待たせて貰うよ。……残念だけど」
残念だ、それは確かに。来週は、雨なのか。相変わらず、私の脳ミソは、高台くんを前にすると、彼の言葉を頭の中で復唱する程度にしか働かなくなった。雨なんて、降らなければいいのに。だけど、高台くんの大事な時期に支障をきたしてはならない。
「陸上さん、もうすぐ受験でしょ?」
「わ、私!? 私はそんな、大した……それより高台くんの方が大事な!」
「俺は、大丈夫」
彼の大丈夫は、たとえ高熱が出ようと、合格間違い無しさっ!って事だろうか……。
にこ。
はぁ!威力!!よく分からないけど、カッコいい。
ん?
『雨ならこの時間は無しにしよう』
『残念だけど』
ようやく、彼の言葉を復唱し終えた脳ミソが、彼の言葉を噛み砕く。雨じゃなければ、この時間は必ずあるってこと!?
残念って、残念って、高台くんもこの時間を楽しみにしているって事!?
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