1573人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
────
「わぁ、満開だねぇ」
今年も桜色になった空を見上げてそう言った。物凄く綺麗。人混み、雑踏。それなのに、みんな足を止める。
「桜ってさぁ、見上げると……金木犀の匂いがしない?」
「は? 何言ってんの、萌香。季節真逆でしょ」
「あはは、だよね」
「萌香って、金木犀漢字で書けたよね」
「んー、そう、高校の時から書けたよ」
「凄いね、好きなの?」
「うん、桜と同じくらい……好き」
「そっかぁ、いい匂いだよねぇ。あ! 行こう、お昼休み終わっちゃう」
桜の花びらがひらひらと柔らかく、暖かい春の風に優しく舞った。
受け止めようと差し出した手をスッと掠めて地面へ、ひらりと落ちた。
初恋の桜色。私だけに香る、金木犀の香りを背に、私はそう言った彼女の後を急いだ。
最初のコメントを投稿しよう!