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思い出すのは、まだ暑い季節。金木犀の季節。寒い冬。春に変わる頃。
私たちは公園のベンチで過ごした。それから、高校の中でも少し。
思い出はどこまでも柔らかく。そっとしまっておきたいくらい大切な物。
紺色の手のひらサイズの生徒手帳に、ひとひらの花びらの栞。二人で写った写真。
笑っちゃうくらい不器用で幼かった。連絡先さえ聞けなかった。
桜は毎年見事に咲いて、反対側の季節では橙色の花が芳しい香りを放つ。真っ直ぐだったあの頃。今も、いつでも、きっと、これからも。思い出の中は鮮やかで、彼は私の背中を押してくれる。私の心を強くしてくれる。
それから、私を未だに、少しせつなくさせてこの上なく、幸せにしてくれる。
写真の中の二人の笑顔。
にこ。心の中で、あの頃の高台くんが笑った。
───end
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