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1週目
早い子なら、進路が決まる。そんな時期だった。3年生全体がピリピリしている、そんな時期。1人、2人と進路を決めていく。そんな焦りと不安の入り交じった時期だった。
近道だから、いつも帰宅するのに近所の公園を横切っていた。
カンッと音がして、足先の感覚に、落ちていた空き缶を蹴っ飛ばしたのだと気づく。それは、コロコロと転がり、ベンチの下を抜けて誰かの足に当たった。
わっ!
「す、すいません」
ベンチに座った上背からサラリーマンだと思った。その誰かがその缶を拾い上げ、振り向くまでは。
「あ……」
その人の姿に私は固まった。綺麗な夕暮れの日が彼の顔を照らす。無表情の彼の手の空き缶を見て、サッと血の気が引いた。ち、違うの、私がポイ捨てしたわけでは……
私が焦っているのに反して高台くんその人は、落ち着き払った低い声で
「捨ててもいい? 」
私にそう聞いた。
「は、はい、ご、ごめん、なさなさい」
私がそう言うと、彼は横のスチール製のゴミ箱に静かにそれを捨てた。
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