あなたとだけでいい

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あなたとだけでいい

ふたりで山を登ってそのままふたりで死ねたらなと思っていた あなたは、違ったかも知れないけど 別に申し合わせたわけではなかったし あなたはただ山に登ろうか?とハイキング気分だったと思う 高原植物が咲き乱れていて派手な花ではないけど小さくて可憐で なんだかこころが澄み渡ってくる感じで ただただ静かで こんなところで死ねたらいいね と、あなたが急に独り言みたいにつぶやくから わたしはとっさに こんなところで死んだりしたらあとのひとが大変 迷惑かけるでしょ と、あたかもジョークに笑いながら言い返すみたいに わたしの心を言い当てられて、あの時うまく隠せただろうか あなたもわたしと同じことを考えていたんだ お湯を沸かして濃いコーヒーをふたりで飲んだ そして黙ったまま景色を長い間みていた 暗くなっても下山しなかった それはどちらともなく 言葉はなかった 近くに深い滝壺があって 断崖絶壁 ここなら誰にもわからないまま朽ちていけるよ 黙ってうなずくわたし いままでありがとう 涙で言葉がでないわたし 白いくすりをふたりで飲んで 少し朦朧としてきた ふたりの荷物を投げ込み 最後にくちづけをして手をつなぎながら 飛び降りる とてもきれいな月明かりの下で だれにもふたりがいたことなどわからない それがふたりの望みだった さいごまでふたりだけでよかった あなたとわたしだけで・・・
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