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「良かった! ではさっそく準備を……」
お互いの両親が盛り上がって話を進めている。
僕は鉛のように重くなった肩を落として、視線を前に向けた。敦史さんと目が合う。彼もまた、どんよりとした空気を背負っていた。
「……」
「……」
「……あの」
「は、はい」
思わず姿勢を正す。敦史さんはとても申し訳なさそうに、僕に話し掛けてきた。
「うちの父がすみません。強引で……」
「いえ……僕も考え方が古かったというか……」
「いや、おかしいですよね。いきなり同棲しろなんて……」
「ええっと……」
「……」
「……」
ひょっとしたら、敦史さんには自分の父親に逆らえない理由があるのかもしれないと思った。何だろう? もしかして、少しでも反論すれば暴力をふるうDV親父だとか? そんな父親が仕組んだお見合いだから断れずに参加しているだけ、とか?
でも、それなら男同士でお見合いさせる理由ってなんだろう? だって、同性じゃ孫の顔が見れないよ? それでも良いってこと? ますます分からない。
「では、引っ越しは一週間後ということで! 敦史、お前のマンションに雲野さんに引っ越していただくからな! ちゃんと掃除しておくように! 雲野さん、忙しくなるがどうぞよろしく!」
「……はい」
「……はい」
僕たち子供に拒否権は無い。
敦史さんと僕が同時に頷いたところで、お見合いは終わった。ほんの数時間の出来事なのに、僕にはとてつもなく長い時間に感じられた。
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