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「……」
「敦史さん」
「……」
「そろそろ、出ないと」
湯船の中で、敦史さんは体育座りをして俯いている。もう十分は経っているんじゃないかな。のぼせちゃうよ。僕は敦史さんの頭をそっと撫でた。すると、彼は小さな声で謝罪してきた。
「……すまない。こんなはずではなかった」
「え?」
「もっと、こう……空の前では格好をつけていたかった。欲望のままに動いてしまうなんて、俺は……ああ……」
敦史さんは頭を抱える。そんなこと、気にしなくて良いのに。だって……気持ち良かったし。それに、反応しちゃったら出すでしょ、男なら。
「敦史さん、さっきのは慣れるための勉強ですよ」
「……勉強?」
「その、お互いにこういうことは初めてだから、いきなりだときっと失敗します。だから、ちょっとずつ触れ合っていけば、本番は大成功のはずです」
「そう、か……?」
敦史さんを無理やり納得させて、僕たちは浴室から出た。そして、タオルで髪を拭き合う。敦史さんの方が背が高いから、僕が拭くときはちょっと屈んでもらった。
「空、今日はありがとう」
「はい?」
突然、お礼を言われて僕は首を傾げた。
「何か、しましたっけ?」
「俺の両親に挨拶をしてくれただろう? 嬉しかった」
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