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僕の言葉を聞いて、父の顔が引きつった。
「し、写真は、無い」
「はあ? 何それ? お見合い写真って普通あるものなんじゃないの?」
「じ、時代が変わったんだ!」
「時代って……」
「良いか? 写真を見ると言うことは、見た目で人を判断してしまう可能性があるということだ」
「そりゃそうでしょ」
「そんなのは、二十一世紀のお見合いとは言えない! これからの時代、人間は中身だ! 見た目に騙されることがあってはいけない! だからこのお見合いに写真は必要ない! 以上!」
「……意味分かんないよ」
無茶苦茶なことを言う父に呆れて、僕は頭を掻いた。
そりゃ、人間中身が大事だけど、僕にも好みってものがある。外見を教えてくれたって良いじゃないか。
「……相手の人は、僕の顔知ってるの?」
「そういえば、知らないと思う。良いじゃないか、お互い中身だけでお見合いが出来て」
もう父に何を言ってもお見合いは強行されるに違いない。僕は諦めて息を吐いた。
「……日曜日、空けとけば良いんでしょ?」
「ああ! 頼んだぞ! 父さんの未来がかかってるんだ!」
あーあ、気が重いなぁ……結婚なんて、まだまだ先で良いじゃないか。実家暮らしで貯金はそこそこあるけど、誰かを養えるかどうかと言われればどうなんだろう。ああ、相手はキャリアウーマンだったな。なら、どうにかなるか……。それにしても、気になるのは年齢だ。俺の職場の年上の女性は、皆、ちょっと怖いから。
「……気のきつい女の人だったらどうしよう」
「いや、それはないと思うぞ」
父はそう断言した。優しい系の女性なのかな。なら安心だ……と胸をなでおろしたあの時の自分を殴ってやりたい。
そう、父の言うことは正しかった。
現れたのは気のきつい女の人じゃなかったから。
僕の目の前に現れたのは、どこからどう見ても、男の人だったのだ!
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