仕組まれたお見合い

1/7
前へ
/125ページ
次へ

仕組まれたお見合い

「……えっと、何の話でしたっけ?」  三ツ星ホテルのレストラン。  もちろん貸し切り。  熱々のコーヒー。  ぼんやりしてしまい、話の内容を忘れてしまった僕は、馬鹿正直にそう尋ねてしまった。隣の母の草履がぐりぐりと食い込んで痛い。父はというと、さっきから仕事の話を相手のお父さんと真剣にしている。お見合いを頼んだのはそっちのくせに、無責任だ。   「まあ、この子ったら、昔からちょっと抜けてるところがありまして……おほほほほ」 「いえいえ、とても可愛らしいご子息様で……おほほほほ」  両家の母親たちは着物でばっちりキメている。髪をアップにしているせいか迫力があってちょっと怖い。着物の良さはさっぱり分からないが、きっとお互いに勝負服なんだろうなと思った。 「休日の過ごし方のお話をしていましたよ」  僕の真正面に座ったお見合い相手が笑顔で言った。  そう、父や母のことは、今はどうでもいい。  問題はこの人なんだ。 「ええっと、だいたいリビングでテレビを、」 「この子、映画が好きで、よく観ていますわ。おほほ」  すかさず母のフォローが入る。けど映画って言われても……金曜日の夜にやってる、ロードショーしか最近観てないんだけど。   「映画ですか。俺は最近ゆっくり観る暇が無くて……」  良かった。深く訊かれずに済みそうだ。  相手が仕事人間で助かった。  ……いや、そうじゃなくて。
/125ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4156人が本棚に入れています
本棚に追加