近付く距離

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 あの時、僕は……もっと近づきたいと思ってしまった。もっともっと、近くに行きたいと……。 「ああっ! 馬鹿! 馬鹿! 僕の馬鹿!」  布団を頭からかぶって、やましい思考を遮断しようと試みた。けど、浮かんでくるのは楽しそうに笑う敦史さんの表情で……。 「……敦史さん、本当に楽しそうだったな」  きっと仕事人間だから、こういったのんびり過ごす時間が久しぶりすぎたんだろう。そういう僕も……楽しかった。また、映画の鑑賞会したいな。なんだか、心の距離って言うのかな、それも縮んだ気もするし。 「もっと、笑って欲しい……」  僕が敦史さんを癒してあげられたら良いのにな。そんな考えが浮かんだ。誰でもない、僕が、敦史さんの心を日々の疲れから解放して――。 「ああ、僕の、馬鹿……」  本当に僕は馬鹿だ。だって、こんなこと考えるのは間違っている。例えば、僕が可愛い女の子だったらそういうのも可能だと思うけど、男の僕が敦史さんを癒すだなんて……不可能だ。   「……寝よう」  考えることを止めて、僕は目を閉じた。  でも、思い出すのは敦史さんのことばかりで……どうしちゃったんだ、僕は。  どきどきと鳴る心臓はなかなか落ち着かず、僕がやっと眠れたのは、日付が変わってから三時間ほど経った後だった。
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