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買い物デート
土曜日。会社は休み。なので、僕はショッピングモールに冬服を見に行こうと、朝から身支度を済ませていた。今日はひんやりするって天気予報で言っていたから、唯一持って来ていた茶色いカーディガンを身に着けて部屋を出る。すると、リビングでコーヒーを飲んでいた敦史さんと目が合った。
「あれ? 空、出かけるのか?」
「はい。コートを買いに」
敦史さんは手にしていたカップをテーブルに置いて、目をぱちくりしながら僕を見る。その視線に、少しどきりとした。
「コートは……買うのはもうちょっとしてからでも良いんじゃないか? 新作がもう少し待てば出ると思うし」
「はい。そう思うんですが、僕、冬に羽織るものを持ってくるのを忘れたんです。だから、早めに買っておかないと心配で……在庫処分で去年のデザインのが安くなってるかもしれないから、それも狙ってるんですけど」
「なるほど……よし」
おもむろに敦史さんは立ち上がり、自室の方へ足を向けた。そして、振り向いて僕に言う。
「俺が車を出そう。少し待って居てくれ」
「分かりました……へっ? 車? いえ、僕はバスで……」
「俺も買い物がしたかったんだ。良ければ同行したいのだが……迷惑かな?」
そんなことを言われて、断れるわけがない。僕はぶんぶんと首を振って敦史さんに言った。
「迷惑だなんて思いません! 是非、一緒に行きましょう」
「ありがとう。ふふ、デートだな」
そう言って敦史さんは着替えるからと言って自室に消えた。
――デートだな。
何気なく呟かれたその言葉に、僕はしばらくの間、顔が火照って仕方が無かった。
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