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「お客様、お似合いですぅー!」
女性の店員さんに褒めちぎられて、僕は試着したコートと、その隣に売られていた焦げ茶色のジャケットを購入した。商品を二点以上買うと二十パーセント割引してもらえたから得した気分だ。敦史さんも、ついでにセーターとかシャツとかを数点買っていた。どれもそんなに高くない普通のやつ。敦史さん、土台が良いから何を着ても高いものに見えるんだな……。
「さて、十一時半か。何か食べよう。それから、夕飯の材料を買おうか」
「はい」
レストラン街のイタリアンの店に入って、それぞれパスタを注文した。敦史さんは和風の、僕はクリーム系のパスタ。初めて入るお店だったけど、味がとても美味しくて、また来たいと思った。
「敦史さんは、良くこのショッピングモールに来るんですか?」
食後のコーヒーを飲みながら、僕は敦史さんに訊いた。敦史さんは首を振る。
「いや。良く、というほど利用はしない。けど、ここは何でも揃うから、そうだな……月に一回か二回は来ているな。それ以外の普段は近所のスーパーだ」
「そうなんですね」
「空はどこで買い物をするんだ?」
「ああ……僕はネット通販が多いですね」
「なるほど。確かに便利だな。ただ、俺の場合、家に居ないことが多いから受け取りに困るんだ」
「分かります。再配達も宅配の人に悪いし……そこが難しいですよね」
コーヒーを飲み終わって、僕たちはイタリアンの店を出た。お腹が一杯で少し眠い。そんな頭で、僕は家を出る前の会話を思い出していた。
「そう言えば、敦史さんも何か目的があってここに来たんじゃないんですか?」
「目的?」
「確か、買い物がしたいって、家で……」
さっきの買い物とは別に、用事があるはずだ。
僕の言葉に、敦史さんは目を丸くした後「覚えてたのか……」と呟いた。そして、照れ臭そうに口を開く。
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