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「あれは……口実だ」
「えっ?」
「空と一緒に出掛けたかったから、嘘を吐いた。すまない。許してくれ」
な、な、な……!
僕と出かけたいからって、う、嘘まで吐いて……!?
それって何で!? いったい、どんな理由が!?
僕は、みるみる顔が赤くなるのが自分でも分かった。敦史さんは続ける。
「空と居ると……楽しいんだ。映画の時もそうだった。心が……安らぐというか、何と言うか……」
「あ、あの……」
「本当に、不思議なんだが……」
ばくばくと心臓が鳴ってうるさい。土曜日の騒がしいショッピングモールだというのに、僕には敦史さんの声しか聞こえない。敦史さんの、少し低くて、柔らかくて、穏やかな――声。
「空、良かったらこれからも時々、俺と一緒に過ごして欲しい。空とは、良い友人関係が築けそうだと思っている」
友人。
その言葉が、僕の胸に突き刺さった。いや、嬉しいんだ。敦史さんみたいな完璧な友人が出来ることは。けど、僕はもっと近くに近付きたいと思ってしまう。それは、親友? それとも――。
「……はい。僕も敦史さんと一緒に居るのは楽しいですから」
そう言った途端、ざわざわと周りの人々の声が耳に届くようになった。
分からない。僕はいったい、どうしたいのかが、分からない。
「そういってくれて嬉しいよ。それじゃ、地下一階に……」
その時、嬉しそうに笑う敦史さんの肩を一人の人物が叩いた。僕も敦史さんもそちらを見る。そこに居たのは、艶やかな黒髪を肩まで伸ばした、大人しそうな雰囲気の女性だった。
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