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女性は目を見開いて、大きく右手を振り上げた。駄目だ! このままじゃ、敦史さんが殴られる! 敦史さんはというと……ぎゅっと目を瞑って女性の平手打ちを受ける気満々だ。何で!? ああ、もう! 止めなきゃ!
「敦史さん!」
避けて! そう言おうとした僕の頬に鋭い衝撃が走った。
ばっちーん! と漫画みたいな音が辺りに響き渡る。
「痛いっ!?」
僕は思わずその場にしゃがみ込んだ。そう、平手打ちをくらったのは何故か、僕。何で僕が!? 混乱する頭で、僕は女性を呆然と眺めた。
「空!」
敦史さんが屈んで僕の背中を支えてくれた。何なんだよ、いったい……。
へなへなと力が抜ける僕に、女性は冷たい目で言い放った。
「ふん。仕事しか能の無いつまらない人間とよくお友達になれたわね。あんたが居なければ言いくるめられたかもしれないのに……この邪魔者! まぁ、せいぜい友達ごっこを続ければ? あんたも金目当てなんでしょう?」
そう言葉を投げ捨てて、女性は速足に人混みの中に消えて行った。敦史さんが「待て!」と追おうとしたけど、僕はその手を掴んで止めた。
「今行ったら、また関わることになっちゃいます。もう、放っておきましょう」
「しかし! 空が……」
「僕は平気です。あはは、こんな目に合うなんて、何だかドラマみたい……」
敦史さんに支えられながら、僕はゆっくりと立ち上がった。平気だと言ったけど、本当はまだひりひりして痛い。敦史さんの目を見ると、動揺を隠せない表情をしていた。
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