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「空、本当にすまない……」
ダメージを受けた部分に、敦史さんがそっと触れる。敦史さんの手は、熱かった。
「謝らないで下さい。それより……さっきの人、いつもあんな感じだったんですか?」
「いや……大人しい人だった。しかし、三か月も付き合っていなかったから……もうすこし長く一緒に居たら、本性が現れていたかもしれないな。バッグを売っている時点で強く疑うべきだった。それでも、当時は信じたかったんだ……その……」
「好きだったんですもん。しょうがないですよね」
そうだ。
敦史さんはさっきの人のことを好き……愛していたんだ。
そう考えたら、ずきりと頭の奥が痛くなった。僕がこめかみを押さえると、敦史さんが心配そうに僕の手に触れた。
「やはり痛むんだな!? 病院に……いや、こういう場合は被害届か……?」
「お、落ち着いて下さい! 僕は本当に平気ですから、大ごとにしないで下さい……けど、冷やすもの欲しいです。冷たいペットボトルでも良いから」
「分かった! 買って来よう!」
「あ、僕も一緒に行きます!」
この場に一人になってしまったら、またさっきの女性が来て……また酷いことをされるかもしれない。そんな恐怖心が芽生えてしまった。敦史さんは僕の手からショップの紙袋をさっと奪うと、僕の背中に軽く手を添えてゆっくりと歩き出した。
――あんたも金目当てなんでしょう?
女性の声が頭の中でループする。
敦史さん、どんな恋愛をしてきたのかな。愛しては……裏切られてきたのかな。だとしたら……悲しい。苦しい。敦史さんには、もう嫌な思いはして欲しくないな。僕なら……そんな思いさせないのに。なんて、偉そうな思いが浮かんだ。何を考えてるんだ僕……。
「空?」
「あ、平気ですよ」
黙り込んでしまった僕を敦史さんが心配そうに見つめる。僕は笑顔を作って前を向いた。
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