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「あの……ごちそうさまでした」
ショッピングモールから車で数十分のレストランから出て、僕は敦史さんに礼を言った。あれから頬を冷やして休んだり、ちょっとお店を見て回っていたりしたら夕飯の時間になった。そしたら敦史さんが「食べて帰ろう」と言ったので、僕はその提案に頷いたのだ。まさか、奢ってもらえるなんて思ってもみなかったけど。
「あの、やっぱり割り勘……」
「良いから。それより、この店の料理は最高だっただろう? 隠れ家的なところなんだ」
確かに、出て来たディナーは最高に美味しかった。客層も安定していて穏やかな雰囲気のお店。敦史さんは車の運転があるから飲まなかったけれど、僕はおすすめのワインを飲んだ。少し甘くて透き通るような風味のワインは、今までに飲んだ中でも一番だと思う。
僕たちは車に乗り込む。僕がシートベルトを締めたのを確認してから、車は滑らかに出発した。
「本当は、誰にも教えたくない店なんだが……空は特別だから一緒に食べたかった」
「……」
特別。
それはきっと、親しい間柄って意味! 僕は笑顔を作って敦史さんに言った。
「そうだったんですね。それじゃ、あのレストランのことは誰にも教えません」
「ああ。二人だけの秘密だ」
悪戯っ子のように敦史さんは笑った。その笑顔が眩しくて、僕はぼんやり見とれてしまう。
これは……マズいんじゃないか。
こんなに敦史さんのこと、意識してしまうのは……変だ。もしかして、もしかしなくても、僕は、敦史さんに惹かれてる……?
特別、秘密。
その言葉が、甘い蜜みたいに頭の中でとろけて混じる。嬉しくて、くすぐったくて、もうどうしたら良いのか分からない。
僕は敦史さんを横目で見る。真っ直ぐに前を見据えるその瞳に、僕のことを映したい。そう思ってしまった。
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