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「ふ、あ……」
マンションに帰って、先にお風呂の順番を譲ってもらった僕は、テレビの前のソファーにごろりと横になった。敦史さん、今、入浴中だし。ちょっとくらいだらけても良いよね。テレビの食レポ番組を適当に眺めていたら、自然と欠伸が出た。テレビ画面には美味しそうな焼き肉定食。でも、あんなのよりもさっき食べた料理の方が美味しいに決まってる。
「んー」
テレビ、そんなに面白くない。
僕は仰向けになって天井を眺めた。そして目を閉じる。すると、一日の疲れがどっと押し寄せてきた。
今日は、いろんなことがあった。
楽しかった買い物に、人生初の平手打ち。最高のディナー……内容がどれも濃すぎて思わず苦笑する。
痛い思いもしたけど、それ以上に……。
「また、出かけたいな」
敦史さんは「デート」だと言っていた。
デートしたい。他の誰でもない、敦史さんと……。
でも、敦史さんは女の子が好きで、僕も、前まではそうだったけど、この気持ちを自覚してしまった今はそうじゃなくって……ああもう! わけが分からない!
悶々としていると、リビングに近付く足音が聞こえた。駄目だ、今起き上がったら慌ててだらけたのを誤魔化したみたいになってしまう。こうなったら……。
「空? 寝たのか?」
僕は、疲れて眠っています作戦を実行した。
目を瞑っているから、敦史さんがどこに居るのか分からない。けれど、足音と気配がだんだんこちらに近付いてくるのは分かる。僕はぎゅっと瞼に力を入れて、演技がバレないように震える心臓を落ち着かせた。
「空……」
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