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敦史さんが、ソファーに近付いて床に膝をついた気配がした。見られている。ちょっと恥ずかしい……。
きっと起こされる、よし、その時に目を開けよう。そう思っていたけれど、敦史さんは僕を起こさなかった。
――っ。
頬に、柔らかい感触。
平手打ちをくらった部分に、敦史さんが触れている。
ぞわりと、顔に熱が集中するのが分かった。
「まだ少し赤い……ああ、綺麗な肌を傷付けてしまった……空、本当にすまない」
――敦史さん。
声を出したいのに、出せない。
もっと、撫でて欲しいという欲求が、言葉を出す邪魔をした。
敦史さんの手は、頬から耳、そして髪に移動する。優しく、まるで小さな動物に触れるみたいに、僕のことを撫で続ける。
「空……出会い方が違っていたら、俺たちは……」
「……っ!」
勢い良く、僕は目を開く。すると、驚いた顔の敦史さんと目が合った。
「あ……」
「ああ、空。目が覚めたか? ここで寝ると風邪を引くから、寝るならベッドで」
「……はい」
――出会い方が違っていたら?
それって、どういう意味?
その続きを聞くのが、怖かった。
だから僕は、目を開いてしまった……。
立ち上がって自室に戻る。ドアを閉めた瞬間「臆病者」という言葉が漏れた。自分で遮ったくせに、敦史さんの言葉の続きが気になる。ねぇ、敦史さん。出会い方が違っていたら僕とどうなりたかったですか? その問いは口に出せるはずも無く、僕の心の中に消えた。
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