残業の夜

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「バックアップは!?」 「……すみません」 「ヤバいな……今すぐに用意しないと、会議は朝一だ!」 「すみません先輩! 手伝って下さい!」  後輩を見捨てるわけにもいかず、僕は消したばかりのパソコンを立ち上げた。 「さっさと終わらせるぞ!」 「はいっ!」  パソコンが起動するまでの間に、僕は敦史さんに「今日は遅くなります」とスマートフォンでメールを送っておいた。同時にパソコンの画面が明るくなる。僕はスマートフォンをスーツのポケットに仕舞って、須田が作っていた手書きの資料メモを眺めた。 「前半の部分はこっちでやるから、須田はまとめから取り掛かってくれ!」 「すみません、先輩!」  こうして俺たちの残業は始まった。  皆が帰ったフロアで、二人で黙々と作業を続ける。かたかたとキーボードを打つ音だけが室内に響いていた。 「……あの、雑談しても良いですか?」  須田が前を向いたまま僕に言った。僕は頷く。 「先輩、結婚のお話はどうなったんですか?」 「雑談終了!」 「ああ、待ってください! じゃあ、別の話題を……」  須田は数十秒黙ってから口を開いた。 「ルームシェアの方は、上手くいってるんですか?」
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