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思わず僕の手は止まった。けれど、すぐに指を動かす。
「……別に、上手いも何も無いよ」
「良い人ですよね。先輩のこと、毎朝送ってくれるじゃないですか」
「ああ……」
「どんな人なんですか?」
どんな人?
僕にとっては……特別な、人。
「……完璧な人だよ。仕事も料理も何でも出来る」
「ええっ!? そうなんですか? でも、そんな人と一緒に居たら疲れませんか?」
「……疲れる?」
「何て言ったら良いのかな……自分と比べちゃってしんどくなりません?」
そんなことは……無い。
敦史さんの隣は居心地が良くて、いつまでもそこに居たくなる。
「……そんなことは無いよ。ただ、見習わなくてはって背筋が伸びる」
「ああ、確かにそうですね。先輩はたくさん見習うべきですよね!」
「……どういう意味」
「だって先輩、残念じゃないですか!」
ざ、残念!?
思わず須田の方を見ると、奴はキーボードを叩きながら続けた。
「先輩、プライベートなことはあんまり話してくれないですけど、オーラが出てるんですよ。何か、ぽややーんって」
「ぽ、ぽややーん!?」
「顔は美人なのに何か抜けてて可愛いけど、結婚するならもっと頼りがいがある感じのが良いって女子社員が話してました」
地味にショックだ。陰で、そんなことを言われていたなんて!
須田の話は止まらない。
「先輩に足りないのは威厳ですね。もっとびしっと決めて……それこそ、ルームシェアの人みたいになってみたらどうですか?」
「……うるさい。手伝わないぞ」
「ああ! 冗談ですって! お願いします、助けて下さい!」
もちろんドジをした後輩を見捨てるつもりは無いが、ちょっと気分が重くなった。僕はポケットから眠気覚ましの辛いタブレットを取り出して一粒口に入れた。頭の隅々までクリアになって、作業効率も上がる気がした。
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