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「先輩、助かりました! 本当にありがとうございます!」
「良いよ」
人気の無い廊下を歩きながら、須田が僕の肩を揉む。
「このご恩は決して忘れません……そうだ! 晩飯食べて行きませんか? 俺の彼女、料理、めちゃくちゃ上手いんですよ!」
「……遠慮しとく。終電もギリギリだし」
「あー……すみません」
「だから、良いってば」
僕は腕時計を見た。走れば終電に間に合うだろう。最悪、タクシーを拾って帰れば良い。敦史さんはもう帰っているだろうか。とっくに寝ているかもしれない。起こさないように、静かに帰らないとな。
「……先輩、怒ってます?」
「何で?」
「いや、無表情だから……美人の無表情は怖いんですよ?」
「知らないよ、そんなの。それに僕はそんなに美人じゃないし」
「ええっ!? 顔だけは良いって女子社員が」
「その話はもう良いよ……」
見た目のことを褒められて、中身を残念だと言われて一気に肩が重くなる。そりゃ、実家でだらしない生活を続けていたのは認めるけど。今までの歴代彼女にも、気の利いたことは何も出来なかったけど。
……敦史さんも、僕のことを残念だと思っているのだろうか。
それは、嫌だ。
一緒に住み始めてからは、敦史さんの真似、というわけではないけど、それなりに気を付けて生活していたつもりだ。
「……はぁ」
「先輩、溜息吐くと幸せ逃げるんですよ!」
「逃げる幸せなんて……無いよ」
警備員さんに一礼して会社の外に出る。もう外は真っ暗だ。
僕はぼんやりと空を眺めた。無意識に漏れる息は白い。早く、帰りたいな。そんなことを考えていると、須田が僕の肩を力強く叩いた。
「先輩、あの車! ルームシェアの人の車ですよね!?」
「えっ?」
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